ここでは、「性的マイノリティ」(LGBTなど)といじめに関することを、より詳しく解説しています。
みなさんは「オカマ」「なよなよしている」「女らしくない」ということばで、誰かを悪くいう場面をみたことがありますか。テレビをつけたら、毎日のように「オネェ系タレント」がお笑い番組に出ています。その中には、面白おかしいシーンもあれば、人を傷つけて笑うようなシーンもあります。
子どもたち同士だけではなく、大人たちのあいだでも、こういうやりとりは多くあります。その中には、無理をして笑顔を作っている人たちが必ずどこかにいます。
性的マイノリティ(少数派)であるレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の子どもたちや、周りからLGBTのようだとみられる子どもたちたちは、いじめの対象により選ばれやすいと言われています。LGBTに対するいじめを防ぎ、向き合うためには、特に気をつける大切なポイントがあります。
あなたは、LGBTという言葉を、いま初めて聞いたかもしれません。でも、実はLGBTは1クラス(30人~40人)に1人はいるような身近な存在です。 LGBTとは、レズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシュアル(B)・トランスジェンダー(T)の頭文字をとったもので、日本ではまとめて性的マイノリティとして語られることもあります。
レズビアン・ゲイやバイセクシュアルのように、同性の誰かに魅力を感じたり、恋愛をしたりすることは、社会の文化や時代によって様々な解釈がされてきました。いまの日本では、同性の誰かに魅力を感じることは「一過性のことで、いつかは異性が好きになる」「個人の趣味」「好きでやっているライフスタイル」などと捉えられがちですが、ほとんどの場合には、本人にとっては無意識かつ自分では選べないこととして、他の誰かに魅かれていることが多いといえます(恋とは、そもそもも個人が考えて選択したことではなく、「落ちる」ものです!)。
レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人たちは人口の3~5%いるといわれ、これは1クラス(30~40人)には1人はいるくらいの確率です。あえてリスクをとって自分から言わないかぎり、だれが「当事者」なのかはわからないので、本当はみなさんの周りにも、何十人といると思われます。
言葉によるいじめ(地域別)
言葉以外でのいじめ(地域別)
左:言葉によるいじめ(年齢別) 右:言葉以外でのいじめ(年齢別)
※ゲイやバイセクシュアルの男性の2人に1人は、「ホモ」「オカマ」などといじめられた経験があります。
(※注釈)2008年調査 有効回答者数 5,525人/2011年調査 有効回答数 10,442人(PC版 3,685人、モバイル版 6,757人) グラフに引用した2011年調査の結果はPC版の回答者の結果です。
(※参考文献) ・平成20年度厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業 インターネット利用層への行動科学的HIV予防介入とモニタリングに関する研究 (研究代表者 日高庸晴)
・平成23年度厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業 HIV感染予防対策の個別施策層を対象にしたインターネットによるモニタリング調査・認知行動理論による予防介入と多職種対人援助職による支援体制構築に関する研究(研究代表者 日高庸晴)
・厚生労働省エイズ対策研究推進事業 ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2
たいていの人は生まれたときに「女」「男」などと性別を決められ、それに強烈な違和感や抵抗感を持つことなく暮らしていきますが、トランスジェンダーや性同一性障害の人たちは、生まれたときに決められた「女」「男」と、自分が感じる自分自身のあり方が一致しません。
心と身体の性が一致しないと、たとえば学校の授業で「男子」「女子」と性別でグループわけをされるときにも「自分はどうしてこっちのグループなんだろう」と違和を感じたり、男女別のトイレやロッカールームを使うことを(異性のものを使うように)恥ずかしく感じたり、スカートやズボン、学校の制服などを着ることや、二次性徴で自分の体が変化していくことなど、ほんとうに様々なことに多大なストレスを感じることになります。心と身体の性が一致しないトランスジェンダーの中には、性ホルモン剤や外科手術によって外見上の性別を変える人々もおり、このように医療のサポートを必要とする人達もいることから「性同一性障害」と言う名称で、心と身体の不一致状態を表すことがあります。
性同一性障害の人たちは、人口の数千人~数万人に1人いるといわれますが、これは病院を受診する人達の数に限定された割合のため、病院にいかない人たちも含めると、心と身体の性が一致しない人たちは300人に1人程度と言われています。だいたい1学校に1人はいる可能性があります。
「自分はLGBTかもしれない」「自分は周りの人たちとは違うかもしれない」と思っている子どもたちは、自分の悩みや困っていることを、どのように言葉にしたらいいのか戸惑うことがしばしばあります。また、誰かに話す(カミングアウト)には、相当の勇気や心の準備がいります。カミングアウトしてもしなくても、安心してそこにいられる場所を作る必要があります。
①「カミングアウト」しなくても安心できる体制をつくる
★学校の方針として
「ひとと違っている子でもどんな子でも、同じように尊重されるべきだ」と学校が公式なメッセージを出し、性的指向や性自認に関わりなく、すべての生徒を守ることを学校の方針の中に明記しましょう。
男女別の制服の着用や、トイレ・更衣室・入浴施設・健康診断の利用、男女別のカリキュラム等への参加が困難な子どもたちがいます。子どもが事情を深く説明しなくても、これらの利用に際して不都合がなるべくおきないように「入浴や健康診断は個別対応ができる」「車いす用トイレ/だれでもトイレは必要に応じてだれでも使用できる」などのアナウンスがあれば、より安心して学生生活を送ることができます。
★授業やクラスの中で
LGBTを貶めるような冗談が出たら、すぐにその場で「いろんな人がいていい」と伝える。誰が味方になってくれるかそうでないかを、悩んでいる子どもたちほど注意深く観察しています。このような言動には「すぐに/その場で/そのたびごとに何回も伝えること」が、再発防止にもっとも有益だと言われています。
保健や家庭科の授業を「異性愛」中心にせず、一言でもLGBTを意識した言葉を添えること。さらには国語や英語、社会科の授業などでもLGBTに触れたり、「いろんな人がいていい」という肯定的なメッセージを発信したりすることはできます。いざとなったら相談できる大人がいるサインを出しましょう。
★保健室や図書館等の活用
カミングアウトしない子どもたちが圧倒的多数であることを前提に、場づくりを考えましょう。用がなくてもなんとなく保健室に出入りする子どもたちの中には必ずLGBTの子どもたちが存在しています(調査)。養護教諭やスクールカウンセラーとの雑談が得意でも、LGBTのことは何年も話せないことが多くあります。
保健室や廊下にLGBTに関するポスターやチラシを設置する。話せなくても、ポスターやチラシでLGBTについて肯定的な情報がそこにあることで、「ここは安全な場所だ」というメッセージを伝え、安心してもらうことができます。学校向けポスターやチラシはこちらのサイトから注文ができます。
図書館に本を設置して紹介する。現在、LGBTについて知ることができる様々な本やDVDが出版されています(参考文献)。悩んでいる子ども本人が図書館で手にするには勇気がいりますが、資料があることで本人の不安感は軽減され、周囲の人々の理解を深める上でも重要な手掛かりとなります。
② もし相談/カミングアウトをされたら
子どものプライバシーを守ること。子どもから相談を受けたことを、おとなの判断で、両親や他のだれかに許可なく伝えるのは控えましょう。多くの場合、LGBTの子どもは家族の中でも孤立していることが少なくありません。もっとも知られたくないのが家族であることもしばしばあります。本人の許可を得たうえで、誰に話すのかを一緒に考えましょう。
わからないことは本人に聞き、本人と一緒に考えること。LGBTと言っても、個人の求めていることやニーズや人それぞれ異なることが多くあります。本を読むなどして正確な知識を得つつも、本人が求めていることを「どうしたい?」と確認する必要があります。
本人の望んでいる対応ができない場合には、どこが落とし所なのかを丁寧に話し合うこと。100%が実現できないからといって何もしないのではなく、できることが何かをお互い探ってください。
資料や外部団体を利用すること。子ども本人がつながることが難しい場合、相談を受けた周りの人が外部自助グループに相談することや、代わりに情報を伝えることも可能です。子ども本人が自分で思考していく上で、資料の紹介や情報提供を行うことも望ましいでしょう。
はじめに、そして最も伝えたいことは「あなたは何も悪くないんだよ」ということです。
いじめ攻略のために、このサイトのいろいろな手段を使ってみてください。
いじめのことを誰かに話すのは勇気がいることですが、特にあなたが「自分はLGBTかも……」と思っている場合には、人一倍の勇気がいるかもしれません。自分でも自分のことがわからないし、「カミングアウト」につながってしまうことへの恐怖もあるし、両親に知られるのは絶対にいやだということもあるでしょう。どんなキモチや戸惑いであっても、その感じ方を自分で大切にしてあげてください。あなたの応援団も、たくさんいます。あなたは決してひとりぼっちじゃないんだよ。
そのうえで、身近で信頼できそうな人や、相談先リストにある団体(リンク)などに、無理ない範囲で話をしてみてください。
≪参考図書≫
※Amazon.co.jp の商品ページに移動します
遠藤まめた 著 『先生と親のためのLGBTガイド』(合同出版 2017年)
遠藤まめた 著 『オレは絶対にワタシじゃない』(はるか書房 2018年)
伊藤悟・虎井まさ衛 著 『多様な「性」がわかる本』 (高文研 2002年)
野宮亜紀ほか著 『プロブレムQ&A 性同一性障害って何?』 (緑風出版 2011年)
伊藤悟ほか著『プロブレムQ&A 同性愛って何?』 (緑風出版 2003年/リンクは2017改訂版)
砂川秀樹・RYOJI編 『カミングアウト・レターズ』 (太郎次郎社エディタス 2007年)
石川大我 著 『ボクの彼氏はどこにいる?』 (講談社文庫 2009年)
NHK「ハートをつなごう」制作班 監修 『LGBT BOOK』 (太田出版 2010年)
≪無料冊子・パンフレット≫
『親と子と教員のためのLGBT入門ガイド』(PDF形式) (日英LGBTユースエクスチェンジプロジェクト実行委員会 2009年)
「かながわレインボーセンターSHIP」による 学校向けポスター・レター
≪DVD≫
『セクシュアル・マイノリティ理解のために~子どもたちの学校生活とこころを守る~』 (“共生社会をつくる”セクシュアルマイノリティ支援全国ネットワーク 2010年)
『高校生向け人権講座・もしも友だちがLGBTだったら?』 (新設Cチーム企画 2010年)
『小学生向けDVD教材 いろんな性別 LGBTに聞いてみよう』 (新設Cチーム企画 2012年)
≪動画≫
セレニティ連続講座「セクシュアルマイノリティ」 ※YouTube の動画視聴ページに移動します
≪制作団体紹介≫
“男性による暴力(特にDV)を止めようと呼びかけること” と“性的マイノリティであることを理由に苦しみ、自殺してしまう若者を救うこと” をテーマに、広報・啓発活動、支援を求めている人への情報提供、行政等公的機関への問題提起や研修等の活動を行っています。
このページの担当:明智カイト/遠藤まめた(2012年)