統計データ
いじめについて議論になると、「日本人は陰湿だから」とか「昔はこうでなかった」といった議論が横行します。しかし、こうした議論は事実にそぐわない上、解決に結びつかない無駄な時間を費やすものであるため、無視したほうがいいでしょう。
例えば『世界のいじめ 各国の現状と取組み』(森田洋司監修、金子書房、1998)には、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、アメリカ、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、ポーランド、ベルギー、オランダ、ドイツ、フランス、スイス、アイルランド、スコットランド、イングランド・ウェールズ、スペイン、ポルトガル、イタリア、中近東・アフリカ・ラテンアメリカ諸国と、それぞれの国・地域のいじめ事情や対策などがまとめられています。
それらのデータを見る限り、日本だけが突出していじめが多い、ということは言えません。同調性やら学力重視やら消費社会やらゲーム感覚やらといった、「日本国内のなんとなくの風潮」といじめを絡めて論じる議論を講じる人は、だいたいにおいて海外でもいじめが頻発している事実を知りません。
もしあなたがネット上で「Bullying」(いじめ)といったキーワード検索すれば、海外のいじめ動画がヒットしたり、いじめを止めるように呼びかけるウェブサイトなどにたどり着いたりするでしょう。中国や韓国でもいじめ事件が、日本で報じられる機会も増えています。いじめ自殺もまた、悲しいことに様々な国で起こっています。
比較研究などによって、「日本独自の背景と対策」を論じることは重要ですが、「日本のいじめは~」「日本人は~」と当てずっぽうな文化論を振りかざすのは、とても賢明とはいえません。
また、いじめ自殺が社会問題化したのは80年代からではありますが、戦前より、いじめ自殺はたびたび報道されてきました。これも同じく「現代人は~」といった文化論として消費するのは無意味でしょう。
起きやすい場所や要因などを調べ、効果的な対策を検討する。そうした丹念な議論こそが求められています。